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東京地方裁判所 平成10年(ワ)27221号 判決 1998年9月25日

原告

コスモ信用組合

右清算人

右訴訟代理人弁護士

松井勝

柏原晃一

岩島のり子

岩崎健一

被告

エドラス株式会社

右代表者代表取締役

Y1

被告

Y1

Y2

右三名訴訟代理人弁護士

中根洋一

主文

一  被告ら三名は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫(一)ないし(三)記載の各不動産について、別紙根抵当権目録≪省略≫(一)ないし(三)記載の各根抵当権のうち各被告が根抵当権設定者となっているものにつき、それぞれ、平成八年一月一二日を元本確定日とする根抵当権元本確定登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について根抵当権を有している原告が、右根抵当権設定者である被告らに対し、その被担保債権の債務者である被告エドラス株式会社及び株式会社トランスビタル・ジャパン(この両者を以下「本件債務者ら」という。)と原告との取引の終了により元本が確定したとして、根抵当権元本確定登記手続を求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(後者については認定に供した証拠を掲記する)

1  原告は、本件不動産について、別紙根抵当権目録(一)ないし(三)記載の根抵当権設定契約締結日に同目録記載の各設定者から同目録記載の各根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定を受けた。

2  原告は、平成七年七月実質上破綻し、同月三一日東京都知事から銀行法二六条に基づき、業務の一部停止命令が発せられたことにより、新規貸付け等の業務が停止された。(≪証拠省略≫)

3  その後、原告は、東京都、大蔵省、日本銀行による原告の破綻処理スキームに従い、平成八年一月一二日臨時総代会により、原告の不良債権を社団法人東京都信用組合協会に譲渡するとともに、右債権譲渡後事業の全部を株式会社東京共同銀行(現在の整理回収銀行)に譲渡する旨の決議がなされ、同日付けで各債務者に対して「取引の終了」に基づく根抵当権確定の通知をした。(≪証拠省略≫)

4  その後、同年三月一三日本件債務者らに対する債権を含む不良債権が東京都信用組合協会に譲渡され、同月二二日東京都知事より原告に対し、同月二五日付けをもって解散命令が発令され、右同日預金払戻し業務等を東京共同銀行に譲渡し、解散して清算法人となった。(≪証拠省略≫)

二  争点

本件の争点は、原告に対する業務停止命令による取引先への新規貸付けの停止及びこれに続く原告臨時総代会における前記決議をもって、根抵当権の元本確定事由である「取引の終了」(民法三九八条の二〇第一項一号)といえるか否かである。

1  原告の主張

東京都知事の業務停止命令により、取引先への新規貸付けは事実上不可能となった上、臨時総代会における前記決議により、原告と取引先との新規取引は確定的に不可能となった(原告が東京共同銀行に譲渡した事業は、「業務停止命令の及ばない範囲」の業務、すなわち窓口における預金の払戻し、貸付金の回収、担保の増徴及び必要最低限度の経費支出であり、貸付業務等は含まれていない。)のであるから、「取引の終了」に当たるというべきである。仮にそうでないとしても、同条項の元本確定事由としての「その他の事由」に当たるというべきである。

2  被告らの主張

「取引の終了」というためには、客観的な事由があるだけでなく、それが相手方に明確に表示され、相手方もこれを確認受領するような主観的な意思の一致が必要と解されるところ、本件には、原告に対外的に表示されるべき具体的な表示行動がない(原告主張の根抵当権確定の通知は、発送日付が不明であるし、取引先に届いた事実が立証されておらず、本件債務者らもこれを受け取った事実を確認できない)上、本件債務者らのこれを承認するような意思と行動がないから、「取引の終了」には該当しない。本件のように、金融機関が破綻した場合には、その業務、特に融資業務が事業譲渡や他の手続により継続される可能性がある場合には、借り手の利益の観点から必ずしも「取引の終了」には当たらないと解するべきである。また、同条項の「その他の事由」についても拡張して解釈するべきではなく、これまでこれに該当するとされてきた事由は、銀行取引停止処分、倒産、営業停止、行方不明など取引先の事由を主に取り扱ってきたのであって、金融機関側の事情はこれに当たらないというべきである。

第三争点に対する判断

一  民法三九八条の二〇第一項一号所定の根抵当権の元本確定事由としての「取引の終了」とは、当該根抵当権の担保すべき債権を発生させる特定の継続的取引契約あるいは一定の種類の取引が終了することによって、被担保債権として予定された元本が以後発生する可能性がなくなることを意味すると解される。

これを本件についてみるに、前記のとおり、原告は平成七年七月三一日東京都知事から新規貸付業務をはじめとする多くの業務の停止命令を受け、平成八年一月一二日の臨時総代会における決議により、原告の不良債権を社団法人東京都信用組合協会に譲渡するとともに、右債権譲渡後事業の全部を株式会社東京共同銀行(現在の整理回収銀行)に譲渡する旨の決議がなされたところ、右譲渡されることとなった事業の中には新規貸付けは含まれない(業務停止されている以上当然のことと考えられる)のであるから、この経過からすれば、右臨時総代会決議の時点で、原告(その事業譲渡を受けた東京共同銀行も含めて)がその取引先に対して新規の貸付けを行うことは確定的になくなったというべきであり、これをもって「取引の終了」に該当すると解するのが相当である。したがって、本件債務者らとの関係においても、「取引の終了」が生じたものというべきである。

二  被告らは、「取引の終了」というためには、客観的な事由があるだけでなく、それが相手方に明確に表示され、相手方もこれを確認受領するような主観的な意思の一致が必要であるとし、原告からの根抵当権確定通知(≪証拠省略≫)が相手方に届いたことの確認がないことなどを問題視する。確かに、これまで「取引の終了」の典型的な例として挙げられていた継続的取引契約の解除や解約については、意思の合致あるいは明確な相手方への意思表示が必要とされるが、本件のような金融機関側の実質的破綻による貸付業務の停止によって取引が終了する場合には、個別具体的な相手方への通知や相手方の了承等によって「取引の終了」の有無や時点が決まるとすべきではなく、新規貸付業務の確定的停止という客観的事実によって集団的に決するのが相当である。被告らの主張は採用できない。

また、被告らは、取引先への融資業務が継続される可能性があるとして、「取引の終了」に当たらないと主張するが、原告の行っていた融資業務が事業譲渡後も継続されないと考えられることは一記載のとおりであるから、右主張も採用できない。

三  よって、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井勉)

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